落葉文集

落ちて廃れた言葉の連なり

生活困窮日記 3〜4日目

■2日目までのあらすじ

 市の住居給付制度を利用することを決断し、6月から始めるアルバイトと就職活動の両立に悩むことになる。

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■3日目

 早くも水道水の味に慣れてきた。ペットボトルに容れて冷蔵庫で冷やせば普通に飲めるものである。

 午前、ハローワークへ向かう。ハローワークカードの申請と、市役所からもらった住居給付に必要な書類にサインをしてもらう。特に求人を探すなどはせず、帰路につく。
 午後、住居管理会社へ向かう。前日に事情は電話にて説明していたが、改めて状況を話し、必死に頭を下げながら書類にサインをしてもらう。
 自宅から離れたところに管理会社があるため移動に電車を利用したが、500円程度の電車賃に肩を落とす状況にまで追い込まれるとは、さすがに前職を辞めた時点では想定していなかった。
 帰り道の途中、ドラッグストアで消耗品の買い足しを行う。タイミング悪く消耗品が切れ始めたため、出費が続く。頭が痛い。
 悩んでいても仕方がないため、翌日に工場派遣のバイトを入れる。

 

■4日目

 初めての工場バイトと久しぶりの早起きを不安視していたが、無事早朝に起床でき、バイト内容もライン作業ではなく清掃業務だったため黙々とこなすことができた。昼食用に持参した、ごはんに食塩とふりかけを混ぜて丸めた物体(≒おにぎり)もそう悪くなく、水筒に入れた水道水ももう慣れた味だ。米は母から支給してもらっているため備えがある。食費を抑えるために積極的に米を食べていく所存だ。

 工場バイトの体験は得るものも多かった。いま日常には様々なモノが溢れているが、それらが全て工場で生産され、どこの工場にもこうしてたくさんの人が派遣され、安い時給で日々単純作業に打ち込んでいるのだと思うと、自分が今後どう生活を送ればいいのかを見失ってしまう。若者から主婦と思しき方、中年のおじさんなど、幅広い層の人が工場の非正規で働いている様子がそこにはあり、数字では見たことのあった製造業従事者の多さと非正規雇用労働者の多さの一端を目の当たりにする。
 コンビニの商品を買うだけでも、店員のアルバイトだけでなく、商品の製造に携わる人、管理に携わる人、運送に携わる人…などと莫大な人の手に支えられていることに改めて思いを馳せる。そこに非正規雇用と呼ばれる人たちがどれだけ関わっているのだろう。途方のない絶望感の中で、この構造の中に自分がどうハマるべきかがわからなくなる。

 あるいは、自分が実際に生活困窮状態に陥ったことで初めて無意識のうちに裕福な暮らしをしていたのだと気付かされる。いや、それほど裕福な暮らしではなかっただろうが、日常的にコンビニで商品を買い、月額制サービスにとりあえず課金しておき、おいしいラーメンを食べ、観たい映画があったら観に行き、読みたい本があったらとりあえず買って積んでおく、そんな生活が実はかなり豊かであったことに気付かされる。 
 文化は人の心を豊かにすると思っていたが、文化に触れられることが豊かさの証明となるだけで、よほど強い信念と愛がなければ貧困状況で文化に触れようとするエネルギーは体力的にも精神的にも金銭的にも出てこないのではないだろうか。では、文化に触れるエネルギーを有していない者の心が豊かでないかといえば、決してそうではなく、工場派遣で生計を立てているおじさんたちは同じく工場派遣で生計を立てているおじさんと楽しく生活を送っているわけだ。
 というか、そもそも“豊か”ってなんなのだろう。文化に触れられることは、心が豊かなのではなく単に生活のあらゆる面で余裕があるというだけだ。余裕があることは豊かさを獲得するための条件の一つではあるのだろうが、余裕がないからといって必ずしも生活や心が豊かでないはずがない。

 これまでは常に社会ってクソだよな、と思っていた私だが、いまとなっては社会になんか興味が湧かず、まず自分の生活をどうにかしなければ、という思いで頭がいっぱいだ。公的制度を利用して生活を自立させようとしている身としては政治や社会、地域などの事柄は重要事項であるはずなのだが、例えば、いまは政治という文化に関心を持っている場合ではないという矛盾が生まれてしまっている自覚がある。ドナルドトランプがどこで何をしてようが、全く関心が湧いてこない。
 近くにあるはずのものが遠くにあり、遠くにあると思っているものが実は近くにあるこの状況を正確に判断するために、市役所の人が相談に乗ってくれたり、友人が助言をくれたりするんだな、などと思う。

 話が散らかってきたので4日目の記録はここで終わろう。とにかく、ホワイトカラーだった前職に就く前に工場での労働を体験しておきたかった、ということを思っている。

 

■5〜6日目 

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