落葉文集

落ちて廃れた言葉の連なり

生活困窮日記26〜31日目

■25日目までのあらすじ

 『海獣の子供』を観た。

zero-sugar.hatenablog.jp

 

■26日目

 午前、ホットケーキミックスを使ってマグカップケーキをつくる。

 即席ココアが余っていたことを思い出す。牛乳や卵によって液状化したホットケーキミックスにココアパウダーを入れる。電子レンジで温める。ココアの香りがする。口に運ぶ。やはりココアの香りがする。ちょっとおいしい気がする。

 昼過ぎ、バイトへ向かう。

 駅のホームにて、今日は兄の誕生日だな、と思う。

 

■27日目

 ハローワークへ求職相談に行く。担当の相談員は相変わらず一切の信頼が置けない人柄だな、と思う。一度抱いてしまったマイナスの印象が後を引き、接し方がいくらか雑になってしまう自分にすこし悲しくなる。自分は人にどんな印象を与えているのだろうか、とすこし不安になる。おまえは雰囲気が近寄りがたい、と中学生の頃に友人から言われたことを思い出す。

 帰りにATMで通帳記入を行う。先月に行った工場バイト2日分の給与振り込みを確認する。

 夜、シャワーを浴びようと洗面所の扉を開ける。床を這い回るゴキブリを発見する。大きめの生物が許可なく自宅に存在しているのは不快だ、と思う。言語による意思疎通が可能な相手でもないため、仕方なく洗剤をかけて呼吸を停止させる。

 

■28日目

 昼過ぎ、バイトへ向かう。バイト先へ行く前に本屋へ立ち寄る。ベルクソンの『物質と記憶』を図書カードで購入する。どうせ難しくて読み切れないのだろうな、と思う。

 バイトへ行く。22時近くまで勤務する。

 夜、瓶に注いだ牛乳へ挽いたコーヒー豆を投入する。冷蔵庫へ入れる。眠りにつく。

 

■29日目

 朝4時、起床する。

 前日に仕込んだ牛乳出しコーヒーを飲む。コーヒーの油分で増した牛乳のなめらかさを舌の上で感じる。牛乳のコクとコーヒーの香りが脳に刺激を与える。快楽を感じる。一気に目がさめる。

 アマゾンプライムで『ひとりぼっちの〇〇生活』を一話分観る。観終わったのち、バイトへ向かう。

 バイトが終わる。帰宅前に図書館へ寄る。どうせ読みもしない小難しそうな本や小説を数冊借りる。

 帰宅する。図書館から借りてきた『ぼくはきっとやさしい』(著・町屋良平)を読む。

 言語によって身体への意識を促すその描写は、言語ながら言語に否定的で、言語によって言語からの解放を試みているようにも感じ、禅や茶道の思想性すら感じ取れる。

 日々文字を扱う文筆家という人たちはすべからく言語の限界、言語の弱さを身を以て知っているのだろう。でも特に町屋良平さんはそこに意識的であるようにも感じる。他作品も読んでみよう、と思う。

 

■30日目

 ベルクソンの『物質と記憶』を読む。やはり内容が難しく、一向に読み進められない。次第に眠くなってくる。これはいかんと思いながらアイスコーヒーを淹れる。アイスコーヒーを口から勢いよく流し込む。いかにも深煎りな苦味と香りが口内を漂う。まだ眠い。本を開く。やはり眠い。本を閉じる。横になる。眠りにつく。

 

■31日目

 午前、市が提携している人材紹介会社との求職面談をする。自前で作った資料を提出する。すこし褒められる。

 午後、業務用スーパーへ行く。納豆3パックを9個購入する。計27パックの納豆が入ったビニール袋をぶら下げ帰宅する。

 夜、浅草へ行く。友人と待ち合わせる。友人と合流する。カフェへと歩を進める。日記について感想をもらう。彼は私の書く文章をいつも褒めてくれる。書いた文章に感想をもらえるとうれしい。

 コーヒー無料券を利用してエチオピアのコーヒーをエアロプレスで注文する。コーヒーを飲む。ベリー系の華やかな香りがやわらかく嗅細胞を撫でる。会話をする。会話ができてうれしい。

 店を出て、餃子店へ向かう。ビールを飲む。辛味で和えられたもやしを、肉野菜炒めを、餃子を食べる。ビールを流し込む。文集を作りたいんですよ、と言う。やるときは参加するよ、と返答してもらう。自分の考えに賛同をもらえるとうれしい。構想している企画に参加してくれると言ってくれてうれしい。

 全額ご馳走してもらう。何から何までお世話になっていることに感謝と申し訳なさが入り混じった感情が込み上げてくる。優しくしてもらえてうれしい。優しくしてくれる友人と出会えてうれしい。友人がいる事実がうれしい。

 うれしいってなんだろう。

 帰路につく。「人生遠回り」をテーマに文集つくりたい、とツイッターに書き込む。フォロワーやフォロワーのフォロワーなどから少し反応をもらえる。反応をもらえてうれしい。

 本当に企画書をつくってみようかな、と少し思う。うまくいくかわからないけど、うまくいかなくてもいいから何か動き出してみたい、と少し思う。

 少しずつ自分の思いを行動にしていくことが、行動できている自分の姿を見せることが、親切にしてくれている友人たちへの心ばかりの恩返しになればいいな、と思う。