無自覚活動記録

幸せになりたい

合コン・ドリーミング

 合コンとは「合同コンパ」の略で、本来は二つ以上のグループが合同でするコンパを意味するが、多くは男性と女性のグループが交流を持つ会のことをさす。合コンの多くは男女それぞれ同数で行われる。仕事やサークル、旧友といった異性の知人(友人)を発端にし、双方が人数を調整して行うものが多い。合コンはあくまで男女が知り合うためのキッカケであり、その後の個人的交際を目的にして行われる(中にはその場の飲み会だけを楽しむ目的のものもある)。

引用元:合コン(ごうこん) - 日本語俗語辞書

 

 ブログを書きたい思いが湧き出てきたため、インターネットで安易にウケがちなネタを臆面もなく探していたらこれだ。私はもう「日本語俗語辞書」なるサイトが気になって仕方がない。一体どんな言葉が載っているんだ。最近だとアレか?“モグラ女子”とか載ってんのか?「ファッションモデルとして活躍する傍らグラビアアイドルとしても活動する女性タレントのこと」みたいなことが書かれているのか?「馬場ふみか内田理央はお前らに譲ってやる。ただし大澤玲美には絶対手を出すな、俺の女だ。でも泉里香は一緒に楽しもうな。」みたいな私欲に溺れた解説が書かれているのか?などと予測を立てながら調べてみたら載っていなかった。“イタ電“とか“ワンレンブス“とか載ってた。

 

 そんなわけで合コンである。日本語俗語辞書によると“合コン”という言葉は1980年代後半辺りから使われているらしい。私自身の経験はないが、発祥から30年経ったいまなお知人だったりSNSだったりを通して合コンと称されるイベントが実施されていることが伺える。1990年代初頭に頭角を現したポケベルが完全に廃れ、携帯電話を経由し、人々の手には一人一台のタッチ画面式小型PCが行き渡るこの2017年にだ、80年代後半に登場した合コンは、合コンのまま現代に存在しているというのだ。いや、実際どうなんスか合コンて、私の頭の中ではそんな思いが巡る。

 

 正直、上の引用文を読んで「お、地獄だな」と思った。集まった人々の半分は知らない人、しかも異性。異性と知り合うことを目的に人が集う、これだけで気持ちが悪い。“人“、“個人“より“性“が求められる、あるいは求める状況があまり好きになれない。“性”だけを求めるのならまあいいやとなるのだが、“性”を前提とした上で中途半端に“個”も求められる、これが気持ち悪い。逆だろ、と。まず人と接する上でみるべきは“人“であって“性“は外的要素の一つだろ、と。そんなことを思うのだが、今回はややこしい話をしたいわけではないのでこの話題はさておき。

 

 私はこの地獄に誘われるような玉ではないし、主催するような玉でもない。自然にしていれば、一生縁のないはずのイベントである。しかし、先輩に連れられて行ったパブで先輩がナンパした女に、なぜか私がホテルへ連行されそうになるという体験に遭い「異性との最大の接触は握手」という鉄板フレーズが使えなくなって以来「人生はなにが起こるか分からない。人生は恐ろしい。」という教訓が身に付いているため、万が一この更なる地獄へ招かれてしまった場合の対策も練っておく必要があるのだ。

 

 まず乗り越えなければならない関門。初対面の人間との接触だ。これに関しては実は自信がある。元来、人見知り臆病シャイボーイな私であるが、ここ半年ほどで自分の中の意識に変化があり、いまでは一対一の会話なら体力が続く限りであれば多分無限に話し続けられるという妙な自負がある。が、ここで問題なのは私が得意とし好んでいるのはあくまで「一対一での会話」であり、これが複数人、みんなでワイワイな状況になると急激に弱体化してしまう。このときの私は、顔が濡れて力が出ないときのアンパンマンの気持ちが痛いほど分かる。

 私は当り障りのない会話というのが実に苦手だ。大勢で、しかも半分は互いのことをよく知らない状況となると、まず確実に当り障りのない会話が繰り広げられ、その当り障りのない話に関心のあるようなリアクションを強いられ、また当り障りのないレスポンスをする。この不毛なジャブの打ち合いが実に気を遣うし、そのくせ時間を無駄にしてしまっている気すらする。

 飲みの場だけでなく、日常的に頻繁に行われるジャブの打ち合いのような会話というのは、どこかその場しのぎの間をつなぐためだけに行われているようで、その不毛さをいつも考えてしまう。ジャブを打ち合うくらいなら、ジャブを打ち合う不毛さについて考えることを優先してしまうのだ。

 当り障りのない会話というのは、そのときの相手が誰でも同じような方向で成立してしまう状況に陥りがちで、そこに“個人が死んだ状態“を感じてしまう。私は人と接する機会があまりないため、一回の人との会話をかなり重く認識しがちであり、いまこの“とき”にその“人”と会っているという意識を強く持ち、できる限りその人と向き合って時間を共有したいという姿勢をいつも取る。これが一対一でしか人と話せない所以であり、当り障りのない会話を苦手とする所以でもある。だから、基本的にアンパンチはとどめの一撃でしか繰り出さないし、物語序盤の馴れ合いのような場面ではあえて顔を濡らしておくアンパンマンにやはり親近感を覚えるのである。弱パンチ感覚でアンパンチ連発してたらパワーバランス崩れるしな。

 きっと、半分は初対面である男女比の揃った飲みの席できっと私はそのようなことを考えるのだろう。

 

 

 「人がいっぱいいて力が出ない…」

 

 ジャムおじさんからの救いの一手も望めない合コンという場に私は戸惑う。そこで私を「人数合わせだから、いてくれればそれでいいから」などという謳い文句でこの地獄へと手招いた張本人であるマスオカくんが声を出す。

 

 「じゃあ、とりあえず飲み物頼みましょうか〜!!」

 

 マスオカくんは良いヤツだ。思い返せば、いつだって彼は率先して仕切り役を買って出ていた。目立ちたがりやなのだろう。こういった仕切り役の人間を観ていると、世間でコミュニケーション能力が高いとされるのはやはり「当り障りのないやり取りが巧い」ことなのだと、いつも思う。ライトな嘘はお手の物、質問に対し思いつきで返答する。こういったことが私にはできない。マスオカくんは凄い。

 

 「オマエも生でいい?」

 

 私がボーッとしているとドリンクオーダーの確認が回ってきた。

 

 「あ、いや、ハイボールで……」

 「あ、そう。じゃあ生ビール7つとハイボール1つで。」

 

 そう、いつもこうだ。私はビールを飲まないので、いつもハイボールを頼む。すると毎回絶対に浮くのだ。

 案の定、前に着席していた女が、普段は使わないであろう喉の辺りの筋肉に力を入れたような上げ調子の声で訊いてくる。

 

 「ビール飲めないんですかぁ?」

 

 私はビールを飲めないのではなく、理由もなくただなんとなく口にしていないだけなので、飲めないと言うと若干の嘘になる。嘘の付けない私は答えに困窮し、こう返答する。

 

 「えっ…いやっ……まあ……そう……ですね……」

 

 これだ。これが、私とマスオカくんの違いだ。ライトな嘘を付けない。

 適当に「どうしても味がダメでね〜」とかあしらっておけばいいものの、それができない。かといって「なんとなく飲まないんですよ」などと正直に答えたら相手を困らせるのではないかと変に気を遣ってしまう。「序盤からその声じゃ明日喉回り筋肉痛になりますよ?」と気の効いた素敵フレーズも繰り出せない。その結果が「まあ……そう……ですね………」だ。

 完全に顔が濡れている。冷や汗だ。パン生地が濡れ落ちて、中からあんこが染み出てきてしまっている。顔が真っ黒だ、これでは準バイキンマンだ。あぁ、力が出ない。

 

 ドリンクが運ばれ、乾杯の音頭を皮切りに、各々の自己紹介が始まる。身をわきまえて隅の席にひっそりと座っている私の出番は恐らく最後だ。話す内容を考える時間がある…と安心したのもつかの間、その分クオリティを求められる最悪のポジションであることを瞬時に察した。

 突如訪れた災いに、慌てふためく脳内。すぐさま体内の赤血球に緊急体制の指示が出る。地震だ、火事だ、の騒ぎではない。私はこれから自己紹介でウケなければいけないのだ。見ず知らずの異性数名に対し、ウケなければいけない。スベると必要以上の文句を陰で叩かれる。線路立ち入りどころの騒ぎではないのだ。どれだけ周りが「それ、こんなに大事にする必要あるか?」と思っても、叩くやつは徹底的に叩くのだ。私もこの自己紹介でスベろうものなら、あの女たちの間で飽きるまでネタにされ、また、友人、家族、職場の人らへとネタとして伝達され、一部の地域で「自己紹介でスベッた男」として名を馳せることになってしまうのだ。

 私が一人パニックに陥っていることなどつゆ知らず、マスオカくんは軽快なトークで自己紹介を済ませる。後の雑談に続くよう、多くは語らないが、複数の引出しを見せつつ、軽い笑いも含ませる。マスオカくん、君は一体何者なんだ。そのトーク技術は義務教育で習ってきたのかい?君の通っていた学校は国数英理社漫談のカリキュラムを採用していたのかい?おいおい冗談だろ、それじゃあ誰も学級委員をやりたがらないじゃないか。なんでかって?そりゃ、みんなスベる(統べる)のは避けたいからね。

 パニックがパニックを呼ぶ。混乱の沼にみるみる埋もれていると、あれよと私の出番がやってきた。ヤバい、何も考えていない。どうする、どうする。だめだ、間を作ってはいけない。何か、何か言わなければ……。

 

 「…武藤と申します。…あ…あの…こうゆうの苦手なので…え…緊張してます………。」

 

 これだ。これが私とマスオカくんの違いだ。苦手とか、すぐ言ってしまう。

 皆の「え?それだけ??」という表情が私に向けられる。この瞬間、今後この人たちに陰で「モジモジ男」と呼ばれてしまうことが決まった。

 

 「顔が濡れて力が出ないので……………」

 

 心の中でそう呟き、ひとりでクスッと笑った。

 

 これだ。これが私とマスオカくんの違いだ。自分の頭の中であれこれ考えて、一人でにニヤつく。マスオカくんはひとりでニヤつくことなどないのだ。あれこれ考える前にすべて口にしてしまうのだ。

 

 その後は、もう誰も私の相手などせず、私も干渉しないようにマスオカくんを見つめながら、その立ち回りの巧さに感心する。途中、女性陣によって繰り広げられるトイレ会議にて「あのモジ男なんなの?(笑)」「絶対ドーテーだよね(笑)ウケるんだけど(笑)」などと、早速陰でネタにされていることなど微塵にも思わず、私の視線と興味はマスオカくん一点に集中していた。

 

 ひとしきり盛り上がり、皆が二次会へ行こうとする。

 

 「パン工場が遠いので…」

 

 私一人が早々に帰路につこうとする。もちろん止めようとする者など誰もいない。家をパン工場と称したことにツッコむ者もいない。そもそもアンパンマンのくだりは私の頭の中でのみ存在しているものだ。

 

 居心地の悪さからいち早く抜け出したい。駅へ向かうため皆と反対側へ歩き出そうとしたとき、マスオカくんが一人駆け寄ってきた。

 

 「無理させちゃってゴメンな。」

 

 これだ。これが私とマスオカくんの違いだ。マスオカくんはノリが軽いようで、実は皆をしっかり観ている。その優しさはまさにジャムおじさんのようだった。独りよがりな私と違って、目配りが細かく、優しさに溢れていて、カッコいいのだ。

 

 「ううん、大丈夫。こっちこそゴメンね、盛り下げちゃって。」

 

 俯きながら謝ると、マスオカくんはこう言い残した。

 

 「今度は二人で飲みに行こうな。」

 

 マスオカくんは私が一対一でならちゃんと話ができることを知っていたのだ。二次会組へと戻っていくマスオカくんの背中がやけに大きく見えた。

 

 「マスオカくんだったら…僕のアンパンチ受け止めてくれるかな……」

 

 帰りの電車に乗り込んだ。ガラスに映る私の表情には笑みがこぼれていた。

 

 

 こんな合コンだったら行ってみたい。